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大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)2113号の10 判決 1964年1月31日

原告 芳沢与助

被告 国

主文

一、本件訴えのうち別紙物件表の(1)及び(3)記載の土地の所有権確認を求めるものを除く部分をすべて却下する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

一、別紙物件表記載の土地についてなされた政府買収、政府売渡ならびに大阪府知事が右土地についてなした農林省名義の買収登記、売渡登記の各嘱託行為とこれにもとづいてなされた農林省の所有権取得登記、農林省よりの所有権移転登記はいずれも無効であること、右土地は原告の所有であることを確認する。

二、被告は原告に対して、前項の土地につき、その所有権を回復し、大阪府知事において前項の各登記の抹消登記手続を行うことを容認せよ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告)

本案前の申立として

一、本件訴えを却下する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求め、本案につき

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、請求の原因

一、別紙物件表記載の土地は、原告の所有であるところ、大阪市生野区農地委員会(以下区農地委という。訴状に大阪市東住吉区農地委員会とあるのは誤記と認める。)は、右土地について自作農創設特別措置法(以下自創法という)にもとづく第七回買収計画を定め、大阪府知事(以下府知事という)は右計画にもとづき買収処分をした。

二、しかし、右買収処分は次の理由により無効である。

(実体上の無効原因)

(一) 本件土地は農地でも小作地でもない。

本件土地は、大阪市平野土地区画整理組合の施工地区内の土地である。同組合は、大阪市東南部における近代的模範的都市計画事業を企図して、昭和五年一二月府知事の認可を受けて設立された。そして、まず小作地の離作措置として、向う五年間の小作料を免除し無償使用させて離作、引渡を受ける一方、昭和九年二月から順次整地工事を開始して、大阪府、大阪市の督励のもとに、道路、排水路、公園、運河等の施設を造成し、約三〇二、〇〇〇坪の土地を公共用地についやして、つぎつぎと都市用地に改造し、工事竣工の程度に応じて換地の仮交付を行つてきた。すでに相当地域にわたり公私用住宅その他の建造物の設置もみている。その後、支那事変、大東亜戦争のため都市地区の現出は一時はばまれたが、自創法による買収が実施された当時においては、地区内の大部分が整地工事を完了して換地の仮交付を終り、組合の当初の計画どおり市街地化していた。

この間、前記のとおり離作引渡を受けた旧小作地の大部分は地主の自営地に復帰したが、戦時のため農耕労力が不足し、一時休閑地の状態になつた。戦時下の食糧増産の要請からふたたび耕作された土地もあるがあるいは学校農園として使用され、あるいは氏名不詳者が無断耕作し、たまたま地主の承諾をえて耕作する者があつてもこれまた一時使用の範囲を出ないものであつて、いずれも小作農地として使用されたものではない。

以上のとおり右組合地区内の土地は大部分の工事を完了し、実質上宅地となつていたもので、たとえ農作物があつても自創法が買収の対象としている小作農地ではない。

(二) かりに農地としても、自創法五条四号または五号により買収より除外すべき土地である。

(三) 換地の仮交付を受けた土地を買収するのに仮交付前の旧地番、旧反別を買収の対象としている。

換地の仮交付があつた場合現実に使用収益している土地は仮交付のあつた土地であつて、旧地番の土地は公簿上存在していたにとどまり、現実には存在しない。

すなわち、旧地番の土地に対する買収処分は架空の土地に対する処分で無効である。

(手続上の無効原因)

(一) 買収計画

(1) 農地買収手続には、土地収用の一般法である旧土地収用法の適用ないし準用があるから、具体的事業の認定を受けることを要するのに、農地調査規則は右認定に関する規定を欠き、本件の場合も認定を受けていない。また右規則は土地所有者が買収手続に関与することを許さず、その立会権を認めないから所有権保護の自由権を認める憲法の精神に違反し、右規則にもとづいて設定された買収計画は無効である。

(2) 自作農創設事業は、市町村単位の事業区域を確定し、買収と売渡を牽連させて、総合的単一の基本計画を設定し、これにもとづいて行うべきであるのに本件ではこれを欠く。本件では農地調査規則に定める農地台帳、世帯票さえ作成されていない。

(3) 買収計画の議案設定前に、自創法三条一項一号の準地域の承認申請、その指定、同条五項の買収適地認定、同法五条の買収除外指定、同法六条三項の買収対価認可申請等の手続をしなければならないのに、本件ではそれが行われていない。

(4) 区農地委は、買収計画の議案提出にさきだち、政府の監督機関である地方長官、農林大臣、大蔵大臣の認許を受け、その決議については地方長官の認可を受けなければならないのに、これらの認許を受けていない。

(5) 買収計画の議決をした会議が適法に招集され、その構成が適法で定足数もみたしていたことは被告において立証すべきである。右会議が公開されたことは議事録によつてのみ証明でき、その証明がない限り決議は無効である。また委員会は小作層五人、自作層二人、地主層三人で構成されており、小作委員は議案(各土地を集成して一冊にまとめたものを一個の議案と解すべきである)中のある土地について利害関係を有すると推定できるから、各委員がすべての土地について買取申込その他法律上の利害関係をもたないことの証明がない限り、その決議はすべての土地につき無効である。

(6) 本件買収計画の決議は農林省所定様式による世帯ごとの初葉表裏を欠く文書、つまり物件表関係の記載だけしかない文書についてなされた。しかし右初葉こそ買収処分という行政処分の主要部分であるから、この部分の決議を欠く本件買収計画の決議は法律上不成立である。

(7) 買収計画書は決議に関与した各委員が作成すべきであるのに、本件買収計画書には決議に関与した全委員の署名押印がない。かりに区農地委の名義で作成することが許されるとしても、実際には事務当局が作成したものと考えられるから、委員会作成の公文書としての効力を与えるためには、その旨の委員会の承認決議が必要であるのに、その決議がない。また買収計画は政府の収用命令を委員会の決議という形式で表白するものであるから、買収計画がいつ開かれた委員会の特定決議にもとづいて定められたかを買収計画書の本文に記載しなければならないのに、本件ではその記載がなく、作成、備付の日付さえ記載されていない。

(8) 買収計画は公告によりはじめてその効力を生じるから、その効力発生予定時期である公告の期日を買収計画書に記載しなければならないのに、その記載がない。

(9) 買収計画に定められた買収の時期は政府の所有権取得が確定する時期であり、この時期までに適法な手続により所有権取得が実現しなかつたときは右時期の経過とともに買収計画は当然に失効する。本件では買収の時期までに訴願裁決書の送達、区農地委への承認書の送達、対価の支払がなかつたから、買収計画は買収の時期の経過とともに失効した。

(二) 公告

自創法六条五項の公告は、買収計画の表示方法であるから買収計画決議の単なる抽象的広告ではあつてならず、買収計画の趣旨内容の公表、すなわち買収計画書綴正本の掲示でなければならないのに、本件の公告は買収計画の縦覧の場所と期間を告知するものにすぎない。また公告の日時につき区農地委の決議が必要であるのに、この決議を経ることなく委員会長名をもつてなされた本件公告は、会長の独断専行によるものであつて公告としての効力を生じない。

なお、同条項の縦覧書類は、買収計画の要部を抄写した文書をいい、これを縦覧に供することにより右公告を補充し、買収計画を表示しようとするものであるが、本件ではこの縦覧書類の作成された形跡がない。

(三) 異議却下決定

(1) 本件異議却下決定の決議が無効であることについては、買収計画の項の(5)に述べたところを引用する。

(2) 異議却下決定は合議制行政庁の審判の性質を有するから、その決定書には決議に関与した各委員の署名押印を必要とする。原告に交付された本件異議却下決定書は区農地委の会長名義で作成された違式、違法のものであり、法律上は決定書として不存在である。

(四) 訴願の裁決

(1) 大阪府農地委員会(以下府農地委という)の委員のうち法律家は三名にすぎないから、大多数の委員は法律知識に欠けており、本件訴願裁決には審理不尽の違法がある。また、買収計画の適法性、妥当性を覆審すべきであるのに、原告の不服事由につき審理しただけであるから、この点からも審理不尽といえる。

(2) 合議制行政庁がする訴願の裁決に関する議案は、訴願書ではなく、決議により確定されるべき裁決書の原稿であることを要するのに、議事録によると、府農地委は後日原告に交付された裁決書の主文について議決したのみで理由について審議をしていないから、本件裁決はその効力を有しない。

(3) 本件裁決書は、府知事が府農地委員会長の資格でこれを作成公表しているが、裁決書は知事の作成すべきものではなく、決議に関与した委員が作成すべき公文書である。このことは土地収用法六六条からみても当然である。かりに知事にその作成資格があるとしても、本件裁決書の理由の部分は実際には一、二の委員または書記によつて起案されており、その草案につき知事自身の認許も府農地委の確認もなされていないから、実質的には起案者の作文にすぎず、知事作成の文書としての効力をもたない。

(五) 承認

(1) 自創法八条の承認は適法な承認申請にもとづくことを要するのに、府農地委には本件の承認申請書が現存しないから、承認申請はなかつたと推定される。区農地委に承認申請書控なる文書があるとしても、のちに作成された疑があるのみならず、委員会長名をもつて作成されているから、申請権限のない者が作成した違式のものである。また、申請書の提出につき区農地委の議決がない。かりに申請行為が適式であり、かつ府農地委に申請書が提出されているとしても、訴願裁決の効力発生前(裁決書送達前)に提出されたものであるから時期の点で自創法八条に違反し、承認申請としての効力がない。

(2) 府農地委は、各市区町村農地委員会が承認申請をした特定の買収計画に対する承認書の原稿を議案としなければならないのに、府農地委事務局が大阪府下全市区町村農地委員会の買収計画を一括して作成した第七回買収計画承認の件なる議案について、その外形を形式的に審査したにとどまり、実質については討議していない。これは重大明白な審理不尽でありこのような経過でなされた本件承認はその効力を生じない。

(3) 本件承認書は府農地委員会長である府知事名義で作成されているが、事務当局が作成したもので、発送前に府農地委の確認をうることもなかつたから、無権限で作成された無効のものである。

(4) かりに承認書が有効であるとしても、区農地委に送達されたのは買収期日後であるから、このような承認は違法である。

(六) 買収令書

(1) 自創法九条によれば、府知事は買収計画書写、承認書写により買収処分の実体上、手続上の要件の充足を確認したうえで、買収令書を発行、交付すべきであるのに、本件ではこの確認がなされていない。

(2) 本件買収令書と買収計画はその内容において買収対価の支払方法が異つている。府知事には買収計画の審査権はあつても変更権限はないから、本件買収令書は無効である。

(3) 対価の支払の時期を買収期日以後一年内としているが、公用徴収においては正当補償をしたのちに強制徴収するのが立憲国に普遍する原理である。つぎに、支払の場所を日本勧業銀行の支店としているが取引通念または条理からいつて、国が買収土地の所有権を取得する場所すなわち大阪府庁庁舎内で支払うべきである。さらに対価を一筆ごとの現金払とせず、合筆の上大部分を証券払、千円以下を一口の現金払としたが、農地証券の額面交付は違法であり一筆ごとに現金交付額を定めなかつたのも違法である。

(4) 買収令書は買収期日後に交付されたから無効である。

(七) 政府買収

政府買収には広狭二義がある。買収計画が定められただけではまだ執行力ある行政処分があつたということができず、その承認を受けることによつて政府の買収権能が法定され、こゝに狭義の政府買収、すなわち買収計画と承認の二個の行政作用の結合により組成される一つの法律事実が成立する。この政府の買収権能の執行は買収令書の交付という行政行為の実現により完成され、こゝに広義の政府買収、すなわち狭義の政府買収と買収令書の交付との結合組成により生じる国の土地所有権等の原始取得という法律効果がうまれる。

この狭義の政府買収は買収計画、異議、訴願、承認等の手続が適法であることを前提とし、広義の政府買収は狭義の政府買収と買収令書の交付の手続が適法であることを前提とするのに、本件では前述のとおり、これらの手続が違法であるから、政府買収も無効である。

三、以上のとおり本件買収処分は無効であり、本件土地はいまなお原告の所有であるのに、府知事はこれを有効であるとして、さらに売渡処分をなし、右買収、売渡を原因とする所有権取得登記、所有権移転登記を嘱託し、その旨の登記がなされた。

よつて、申立どおりの判決を求める。

第三、被告の答弁ならびに主張

(本案前の主張)

一、行政処分の無効確認を求める訴えについて

原告は本訴提起のときは本件土地の所有権確認のみを求め、その係属中に行政処分の無効確認を求める新訴を追加した。しかし、民事訴訟法上の訴えの変更ないし併合は、旧請求のために開始された訴訟手続内において従来の訴訟進行の結果を利用し新請求の審判をするのであるから、性質上請求併合の一般的要件を具備し、新旧両請求が同種の訴訟手続による場合でなければならない。ところが本訴の旧請求は通常の民事訴訟として民事訴訟手続により審判されるものであるのに対し、追加された新請求は過去に行われた行政処分の効力を争うもので行政訴訟手続によつて審判されるものである。このように訴訟手続を異にするものである以上、新請求は訴えの適法要件を欠き不適法である。

二、所有権確認を求める訴えについて

別紙物件表(1)(3)記載の土地(以下(1)(3)の土地という)は自創法一六条によりすでに売渡がなされていて、被告は現在所有権を有しない。行政処分は一旦処分としてなされ存在する以上、無効宣言ないし取消しのなされない限り表見的効力を有するものであり、かりに民事訴訟である本訴において(1)(3)の土地が原告の所有であることを確認する旨の判決がなされたとしても、その既判力は現在の所有者に及ばないから原告はさらに現在の所有者を相手どつて本訴同様所有権確認の訴えを提起しなければならないわけである。したがつて所有権確認の訴えは現在の所有者を被告として提起すべきであつて、所有者でない国を被告とする右訴えはその利益がない。

三、(2)の土地の買収処分の無効確認を求める訴えについて

別紙物件表(2)記載の土地(以下(2)の土地という)については買収処分をしていないから、右訴えはその利益がない。

(本案の答弁ならびに主張)

一、原告主張一の事実は、(2)の土地についても買収処分(買収令書の交付)をしたとの点を除き、すべて認める。右土地は訴願の裁決により買収より除外されたので、買収令書の交付をしなかつた。従つて、その売渡処分もしておらず、買収、売渡による登記もなされていない。

二、同二の事実中、本件土地が昭和五年一二月府知事の認可を受けて設立された大阪市平野土地区画整理組合において実施する都市計画法による土地区画整理地区内にあること、同地区が大半の区画整理工事を完了して仮換地の交付を終つており、本件土地についても原告主張のとおり仮換地が指定されていること、買収計画、買収令書に旧地番、旧地積を表示したことは認めるが、その余の事実は争う。

三、(1)(3)の土地の買収処分に無効原因となるかしはない。

区農地委は、昭和二三年四月二六日本件土地につき買収の時期を同年七月二日とする第七回買収計画を定め、翌日その旨公告したところ、原告から異議の申立があつたので、同年五月一八日これを棄却する旨の決定をした。原告は同年六月七日さらに訴願をしたが、府農地委は同月三〇日その裁決を留保したまま右買収計画を承認した。同年九月三〇日(2)の土地については原告の訴願を認容してこれを買収より除外するが(1)(3)の土地については原告の訴願を棄却する旨の裁決があつたので、府知事は昭和二四年三月二八日(1)(3)の土地の買収令書を原告に交付した。

四、いわゆる仮換地の指定があつた土地の買収処分の適法性について

原告は換地の仮交付(被告のいう仮換地の指定)を受けた土地の買収に当り旧地番、旧反別を表示した買収計画、買収処分は無効であると主張するが、右主張は次の理由により失当である。

旧耕地整理法一七条一項によれば換地処分の認可の告示があると事実上は別個の土地である従前の土地と換地とが法律上同一視され、その結果従前の土地に存した権利ないし法律関係は同一性をもつて換地に移行する。ところが、この換地処分は区画整理施行地の全部について工事が完了したのちでなければできないことを原則とし(同法三一条)、区画整理のための道路、堤とう、溝渠等の新設、廃止、区画形質の変更等の工事をするのに、従前の土地につき使用収益権を有する者が引続きその権利を行使したのでは工事ができない。しかし使用収益権の行使を全面的に禁止するのも不当である。そこで旧耕地整理法施行規則九条一〇号は、組合の規約に、耕地整理法三〇条四項の告示(換地処分の認可の告示)前における土地使用に関する規定を必ず設けることとした。この規定によつて規約には通常

耕地整理法第三〇条第四項ノ告示前ニオケル土地ノ使用区域ハ組合長之ヲ指定スルモノトス。

前項ノ使用区域指定前ハ事業ニ妨ゲナキ限リ組合員ハソノ所有地ヲ使用スルコトヲ得

という規定、またはこれと同趣旨の規定が設けられており、平野土地区画整理組合の規約にもその三〇条に同趣旨のことが定められている。組合長が換地処分認可の告示前における土地使用区域を定めることを通常仮換地の指定といつているが、この仮換地の指定は換地設計作成後に行われるのが通常で、のちに行われる換地処分の告示と一致し仮換地と換地が同一土地になるのが普通である。しかし仮換地の指定と換地処分の認可の告示とはその法律効果が全く異なる。前記のとおり換地処分認可の告示があつて始めて従前の土地と換地とが法律上同一視され、従前の土地の所有権、使用収益権が同一性をもつて換地の上に移るのであつて、仮換地の指定にはこのような法律効果はない。従前の土地につき所有権を有する者は依然として従前の土地に所有権を有するのであつて仮換地の上に所有権を有するのではないし、従前の土地の上に使用収益権を有する者も法律上は依然として従前の土地の上に使用収益権を有する。仮換地が使用収益できるのは、仮換地指定の効果として従前の土地に対する現実の使用収益が禁止され、これに代えて仮換地につき同一内容の使用収益をすることが許容されることによる。すなわち、この場合には法律上使用収益権を有する土地とこの権利にもとづいて現実に使用収益する土地が異なるのである。従前の土地の所有者が仮換地の小作を許容している場合も、法律的にみれば、この仮換地に相当する従前の土地につき小作権を設定し、小作人は従前の土地につき小作権を有する結果、仮換地の指定により仮換地につき使用収益をしているものと解すべきである。自創法による農地買収の対象となる小作地は、土地所有者が所有権を有し、小作人が小作権を有する土地であるから、それは従前の土地であつて仮換地ではない。さらに買収の対象となる小作地というためには、耕作の業務を営む者が小作権にもとづきその業務の目的に供している農地でなければならないが、仮換地の指定があつた場合のように法律上小作権の設定されている土地と現実に小作権にもとづいて使用収益している土地とが異るときには、現実に権利行使のなされている土地が農地としての要件を備えている以上、法律上小作権の設定されている従前の土地を小作地として取り扱うのが法の目的に合致していると考えられる。

それゆえ本件買収計画、買収令書に従前の土地を表示したのは適法であり、原告の主張は理由のないものである。

四、本件土地の仮換地は、買収計画当時いずれも小作農地として耕作されていたもので、宅地ないし休閑地利用地ではない。

五、自創法五条四号の知事の指定は自由裁量行為であるから、右指定のない以上、区画整理工事完了後の土地でも適法に買収できる。

第四、証拠<省略>

理由

(本案前の判断)

一、政府買収、政府売渡の無効確認を求める訴えについて

原告は、買収計画と承認の結合により組成される狭義の政府買収、およびこれと買収令書の交付との結合により組成される広義の政府買収なる概念を構成し、これを一個の行政処分であるとしてその無効確認を求める。また、原告がこれと併せて無効確認を求めている政府売渡なる概念も、原告の右主張に徴すると、政府買収に対応する概念として、売渡手続を構成する売渡計画、承認、売渡通知書の交付等の個々の行政行為をいくつか結合して組成したものを観念し、これを一個の行政処分と考え、政府売渡と称していると解せられる。しかし、自創法が買収計画、買収処分(買収令書の交付)あるいは売渡計画、売渡処分(売渡通知書の交付)等の個々の行政処分のほかに、原告がいうような政府買収、政府売渡を独立の行政処分として認めているとは解せられない。また買収手続、売渡手続により権利を害せられた者は、買収計画、買収処分あるいは売渡計画、売渡処分等の個々の行政処分を訴えの対象として救済を受けることができるのであるから、このほかにことさら政府買収あるいは政府売渡という概念を構成して出訴の対象とする必要もなければ利益もない。右訴えは行政訴訟の対象とならないものを対象とした不適法な訴えである。

二、登記嘱託行為と登記の無効確認を求める訴えについて

買収、売渡を原因とする農地の所有権の取得および移転登記の嘱託行為は、国民の権利義務に直接影響を及ぼすものではない。また、私法上の権利主体たる国の登記嘱託機関としての府知事が、登記制度の一利用者という点で一般私人と同列の立場に立つて行うのであるから、処分性がない。したがつて、これらの登記の嘱託行為は行政訴訟の対象となる行政処分ではない。

つぎに、不動産登記簿上に現出されている登記は、その不動産に関する権利または法律関係そのものではなく、また行政処分でもないから、確認訴訟の対象となりえない。

右訴えはいずれも不適法である。

三、所有権の回復を求める訴えについて

原告は、右訴えとともに、被告に対し本件土地の所有権確認と買収、売渡による各登記につき府知事が抹消登記手続をとることの容認を求めているから、右訴えが所有権確認あるいは不動産登記簿上の所有名義の回復を求めるものでないことは明らかである。原告の求める所有権回復という給付は具体的にどのような内容の給付をいうのか明確でないから、右訴えは不適法である。

四、府知事のなす抹消登記手続の容認を求める訴えについて

原告は被告に対し、本件土地につきなされている買収売渡を原因とする所有権取得登記、所有権移転登記の抹消登記手続を府知事においてなすことの容認を求めるのであるが、たとえ右申立どおりの判決がなされたとしても、その判決は不動産登記法二七条にいう判決にあたらないから原告は右判決により単独で右抹消登記の申請をすることができないし、また右判決は被告が抹消登記義務を負担することにつき既判力を生ずるものでもない。したがつて、このような判決をしても当事者間の紛争解決にはなんら役立たないから、右訴えはその利益を欠き不適法である。

五、(2)の土地の所有権確認を求める訴えについて

(2)の土地についても原告主張のとおり買収計画が定められたことは当事者間に争いがない。しかし、成立に争いのない乙六号証、同一四号証によると、府農地委は昭和二三年九月三〇日の会議で、右土地の買収計画に関する原告の訴願を認容し、右土地を買収より除外する旨の議決をして、その頃その裁決書(乙六号証)の謄本を原告に送達したことが認められるから、右買収計画はこれによつてさかのぼつてその効力を失つたことが明らかである(なお、乙六号証の裁決書の作成日付は同年六月三〇日となつているが、成立に争いのない乙一三号証により明らかな右同日開催の府農地委の会議の審議経過からみて右裁決書が同日作成されたものでないことは明白であるから、右作成日付の記載は同年九月三〇日の誤記と認められる)。そして、右土地について買収令書の交付、売渡通知書の交付、買収による所有権取得、売渡による所有権移転の各登記がなされたことを認めうる資料はなく、かえつて成立に争いのない乙九号証(本件買収令書)に(1)(3)の土地のみが記載され、(2)の土地が記載されていないところよりすれば、右土地の買収令書の交付はなかつたことがうかがわれるから、右土地について買収、売渡処分がなされ、その旨の登記がなされたとは認められない。他に右土地が原告の所有であることを被告において争い、原告の地位を不安定ならしめているような事情の存することについては、原告においてなんら主張しないし、またその存在を認めうる資料もない。従つて一旦買収計画を樹立したことがあつたとしても、それ自体一個の行政処分である裁決によつてこれを取り消し、その後原告の所有権をなんら争つておらず、その地位を不安定ならしめてもいない被告国との間で、右土地が原告の所有であることの確認を求める右訴えは、確認の利益を欠き不適法である。

六、被告の本案前の主張の二の点について

国を被告とする所有権確認の判決があつても、その既判力が国から売渡を受けた者に及ばないことは被告の主張するとおりである。しかし、原告の主張によれば、原告所有の土地が買収、売渡処分により原告から国に、国から売渡の相手方に所有権取得ないしは移転の各登記がなされているというのであるから、その各登記の抹消のほかに所有権の帰属についても既判力をえておこうとすれば、被告国に対して所有権確認の判決をうることが必要である。したがつて、被告国に対しても所有権確認を求める利益はあると解する。なお、本訴のうち所有権確認を求めるものを除く部分がすべて不適当であることはすでに判示したとおりであるから、被告の本案前の主張の一の点については判断を与えない。

(本案の判断)

(1)及び(3)の土地については原告主張一の事実は当事者間に争いがない。そこで、原告の主張する買収処分の無効原因について判断する。

一、実体上の違法に関する原告の主張について

(一)の点について

行政処分の無効を主張する者は、その処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白なかしのあることを具体的事実にもとづいて主張立証しなければならない。ところが、本件土地が農地でも小作地でもないことの原因として原告が主張立証するところはなお抽象的で具体性にとぼしく、都市計画法一二条一項の規定による土地区画整理を施行する土地の境域内にも農地が存在することを前提とする自創法五条四号の規定からみて、原告主張のような事実があるというだけでは、本件土地を小作農地と認めた処分庁の認定に重大かつ明白なかしがあるとするに足りない。

(二)の点について

自創法第五条四号による買収除外の指定は自由裁量行為であるから、その指定がない以上、適法に買収することができる。

次に、原告は本件土地が自創法五条五号にいう近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地であることを具体的事実にもとづいて主張しないから、本件土地をそのような農地でないと認めた処分庁の認定にかしがあるとすることはできない。

(三)の点について

本件土地が平野土地区画整理組合地区内の土地で、同組合から仮換地の指定を受けていたことは当事者間に争がない。

本件買収計画、買収処分当時の都市計画法による区画整理は、耕地整理法を準用してなされたのであるが(当時施行中の都市計画法一二条二項)、耕地整理法にはその後にできた土地区画整理法に規定するような仮換地に関する規定がなく、耕地整理法施行規則九条一〇号により組合の規約に換地処分認可の告示前の土地使用に関する規定を設け、これにもとづいて仮換地の指定がなされていた。しかし、従前の土地に存した権利は、耕地整理法一七条一項により換地処分認可の告示があつて始めて換地に移行し、仮換地の指定にはそのような効果がない。現行の土地区画整理法におけると同様に、従前の土地に対する使用収益が禁止され、仮換地について同一内容の使用収益が許されることになるにすぎない。このような土地を買収するにあたり、農地かどうか、小作地かどうかという買収要件の検討は使用収益の禁止された従前の土地についてではなく、現に使用収益のなされている仮換地についてなすべきであるが、買収の対象となるのは所有権であり、その所有権はなお従前の土地に存するのであるから、本件買収計画、買収処分に旧地番、旧地積を表示したことは適法である。

二、手続上の違法に関する原告の主張について

(一) 買収計画

(1)の点について

旧土地収用法所定の具体的事業の認定は、農地買収のための法律上の要件ではない。また自創法は、買収計画樹立後遅滞なくその旨を公告して農地所有者に異議、訴願の機会を与え、これらの手続を経たのちにはじめてその後の手続をすすめるべきものとしているのであるから、農地所有者が手続に関与する機会を与えていないとはいえない。

(2)の点について

原告主張のような総合的単一の基本計画の設定、農地調査規則に定める農地台帳、世帯票の作成は、買収計画樹立の法律上の要件ではない。

(3)の点について

原告主張の各手続は区農地委において必要と認めた場合にのみ行えば足りる。これらの手続のうち、その手続をとるべきか否かの判断が法規裁量に服するものにあつては、個々の場合にその手続をとらなかつたことに裁量を誤つた違法があるとされることもありうるところであるが、原告が主張するように一般的にどのような場合にも必ずその手続をとらなければならないものではない。

(4)の点について

原告主張の認許は買収計画決議のための法律上の要件ではない(最高裁第三小法廷昭和三五年六月一四日判決、民集第一四巻八号一三四二頁)。

(5)の点について

行政処分に無効原因となるかしのあることは、これを主張する原告において具体的事実にもとづき主張立証しなければならないのに、原告は会議の招集手続、その構成、定足数にかしがあることを具体的事実にもとづき主張立証しない。また会議を公開したかどうかは議事録の必要的記載事項ではないから、議事録にその記載がないというだけで公開されなかつたと認めることはできなく、他に会議が公開されなかつたことを明らかにする証拠はない。なお、区農地委が地域内の小作地を一時に買収せず、十数回にわたつて買収したことは公知の事実であるから、区農地委の委員に小作層の委員五名が含まれているとしても、そのことからただちに右小作層の委員中に本件土地と同時に買収計画が樹立された土地のいずれかに利害関係を有する委員がいると推認することはできない。

(6)の点について

成立に争いのない乙一、二号証によると、区農地委は昭和二三年四月二六日自創法六条二項、五項所定の事項を記載した買収計画書(乙二号証)にもとづいて審議し、その記載内容どおりの買収計画を定める旨の議決をしたことが認められる。買収計画の議決においては自創法六条二項所定の事項が審議議決されておれば足り、審議の対象とされた買収計画書が農林省の定める様式に従つていなかつたとしても、その理由だけで買収計画が違法となるものではない。

(7)の点について

買収計画書に決議に関与した委員の署名押印、委員会の特定決議にもとづいて定められた旨の記載、作成備付の日付の記載をすることは法律の要求するところではない(前二者につき前掲第三小法廷判決)。また本件買収計画書が区農地委の事務担当職員の起案したものであるとしても、区農地委においてこれを審議しその記載内容どおり買収計画を定める旨決議したのであるから、さらに委員会作成の公文書としての承認決議をする必要はない。

(8)の点について

買収計画書に公告の期日を記載することは法の要求するところではない。

(9)の点について

訴願裁決書の送達、区農地委への承認書の送達、対価の支払が買収の時期より多少遅れたとしても、これによつて買収計画が失効するとは解せられない。

(二) 公告

公告は単に買収計画樹立の旨を公告すれば足りる(最高裁大法廷昭和二六年八月一日判決、民集第五巻九号四八九頁)。また、買収計画が定められたときは、その農地委員会の代表者である会長がその権限により公告をすることができ、公告するにつき特に議決を要するものではない(前掲第三小法廷判決)。成立に争いのない乙三号証ならびに弁論の全趣旨を総合すると、本件買収計画の樹立にともない区農地委の会長が委員会の代表者としての権限にもとづき第七回買収計画を樹立したとの旨を公告したことが認められるから、本件公告に違法はない。

つぎに原告は縦覧書類の作成がないと主張するが、これを認めうる証拠がなく、かえつて前記乙二号証に弁論の全趣旨を総合すると、前認定のとおり自創法六条五項所定の事項を記載してある本件買収計画書またはその謄本を縦覧に供したことがうかがわれるから、原告の右主張事実は認められない。

(三) 異議却下決定

(1)の点について

右主張の理由がないことは買収計画の項の(5)に判断したところと同一である。

(2)の点について

異議却下決定の決定書は区農地委の代表者である会長が作成しても差し支えなく、その場合決議に関与した各委員の署名押印は必要でないと解せられる。

(四) 訴願の裁決

(1)の点について

府農地委の委員のうちいわゆる法律家が三名にすぎなかつたとしても、そのことだけで本件訴願の審理が尽されていないとすることはできない。また、訴願庁は、訴願人の不服申立事由に拘束されることなく、処分要件の存否、処分の妥当性のすべてにわたつて再審査することができるが、裁決書に記載すべき裁決の理由としては、訴願人が不服申立の事由として主張した事項に対する訴願庁の判断を示し、その結果訴願を理由なしとして棄却するものである旨を記載するだけでも違法ではないと解すべきである。

(2)の点について

前示乙六号証、同一三、一四号証によると、府農地委は、昭和二三年六月三〇日の会議で原告の訴願を審議したが、その結論が出ないため、さらに同年九月三〇日の会議で審議を続け、前示のとおり(2)の土地については原告の訴願を認容し、(1)(3)の土地については棄却する旨の議決をしたことが認められるから、その理由についても審議したものと推認するに難くない。

(3)の点について

裁決書を府農地委の会長である府知事が委員会の代表者としての資格にもとづいて作成しても差し支えないことは異議に対する決定書の場合と同様である。前示乙六号証によると本件裁決書は府知事名義で作成され、その名下に府知事の公印が押されていることが明らかであつて、府農地委がした前認定の訴願棄却の議決にもとづき府知事がこれを作成したものと認められる。原告は右裁決書は起案者である一、二の委員または書記の作文にすぎないと主張するが、これを認めうる証拠はない。

(五) 承認

(1)の点について

成立に争いのない乙七号証によると区農地委は昭和二三年六月三〇日付区農地委会長作成名義の文書で府農地委に対し本件買収計画の承認申請をしたことが認められる。区農地委は自創法八条の定めるところに従い遅滞なく買収計画の承認を受けなければならないのであるから、承認申請書提出につき区農地委の特別の議決がなくても、会長は区農地委の代表者としての資格にもとづき承認申請書を作成し、提出することができる。また、その提出は、訴願裁決の前に行つても違法ではないと解すべきである。

なお、前示乙一三号証によると、府農地委は昭和二三年六月三〇日の会議で、原告の訴願に対する裁決を留保したまま、本件買収計画の承認をしたことが認められ、承認の議決自体が裁決の前に行われていることが明らかであるが、このかしは買収処分の無効原因となるものではなく、その後において前示のとおり裁決がなされたことにより治ゆされたものと解すべきである(最高裁第三小法廷昭和三四年九月二二日判決、民集第一三巻一一号一四二六頁)。

(2)の点について

合議制の行政庁が行政行為をする場合に、議案をどのような形式でとりあげるか、あるいはその議案について具体的にどのような程度にまでたちいたつて討議するか等については、法令に特段の規定のない限り、その行政庁が自由に決しうるものと解すべきである。したがつて、府農地委が本件買収計画の承認をしたとき、大阪府下全市区町村農地委員会の買収計画を一括して作成した第七回買収計画承認の件なる議案について概括的に審議したのみであるとしても、そのために本件承認が違法となるものではない。

(3)の点について

府農地委の会長である府知事は委員会の代表者としての権限により承認書を作成することができ、その発送前に府農地委の確認の議決を要するものではない。また府知事が事務担当職員に作成の事務をとらせてこれを作成しても府知事の作成した承認書というをさまたげない。成立に争いのない乙八号証によると本件承認書は、府農地委がした本件承認の議決にもとづき、府知事が府農地委の代表者としての権限で、事務担当職員にその作成事務をとらせ、これを作成したものと認められるから、無権限者の作成したものではない。

(4)の点について

承認書の区農地委に送達された日が買収の時期よりのちであつたとしても、これにより承認が無効となるとは解せられない。

(六) 買収令書

(1)の点について

府知事が買収計画書写、承認書写により買収処分の実体上、手続上の要件の充足を確認しなかつたとしても、客観的にこれらの処分要件が充足されている限り買収処分は違法とならない。

(2)(3)の点について

原告は買収計画には一筆の土地ごとに表示されていた対価の額を買収令書では合算して表示したうえ大部分を証券払とし千円以下の端数を一口の現金払としたことおよび買収計画には定められていなかつた対価支払の時期を買収期日より一年内、支払場所を日本勧業銀行の一支店と買収令書に表示したことをもつて、買収計画を買収令書により変更したと主張するのである。しかし、買収計画では買収の対価の額のみを定め、対価の支払の方法及び時期については府知事が買収令書交付の際にこれを定めるべきものであることは、自創法六条二項、三項、九条二項二号の規定から明らかである。また、自創法が買収計画後の農地所有権の移転を許しながら(一一条)、買収の時期における当該農地の所有者に対価の支払をなすべきものとしている(一三条一項)ことからみて、対価支払の時期を買収期日以後と定めても違法ではないと解せられる。対価の支払を大阪府庁内でなすべきであるとの原告の主張は独自の見解にすぎず、支払の場所を日本勧業銀行の一支店と定めることも適法である。対価支払の方法として農地証券をもつて対価を交付する旨を定めることができるのは自創法四三条一項の規定により明らかであり、その際買収計画では一筆の土地ごとに表示されていた対価の額を合算したうえ、その大部分を農地証券払と定めても違法ではない。

なお、成立に争いのない乙九号証(本件買収令書)には買収の時期が昭和二三年一〇月二日と記載されており、買収計画に定められた買収の時期である同年七月二日と相違している。右買収令書の記載は、行政庁の錯誤によるものとも推測できなくはないが、たとえ錯誤によるものであつたとしても、行政処分として一旦外部に表示された以上は、その記載どおり同年一〇月二日を買収の時期とする買収処分がなされたものとするほかはなく、これを単なる誤記であるとして同年七月二日を買収の時期とする買収処分がなされたと解することはできない。すると、本件買収令書には買収計画に定められた日と異なる日を買収の時期とした違法があるというほかはない。しかしながら、買収の時期を買収計画で定められた日より三箇月遅らせた買収処分であつても、そのことだけで右買収計画により進められてきた買収手続と全く別個の処分とみるべきではないから、このような買収処分も右買収計画にもとづいてなされたものというを妨げないし、買収の時期は単に政府の所有権取得の時期であるにとどまり、これが三箇月遅延したとしても利害関係人にさほど重大な損失を与えるとは考えられないから、そのような違法は買収処分を無効ならしめるほど重大なものではないと解するのが相当である。従つて本件買収令書の右記載は本件買収処分の無効原因とならない。

(4)の点について

買収令書の交付が買収の時期より多少遅れたとしても、これによつて買収処分が違法となるものではない。

(七) 政府買収について

原告のいう政府買収が訴訟の対象となる行政処分にあたらないことは、その無効確認を求める原告の訴えに対する本案前の判断において判示したとおりである。それゆえ、さきに判示してきたとおり買収手続上の個々の手続の効力を判断したうえ重ねて政府買収なる手続の効力を審判する必要はない。

三、以上のとおり本件買収処分に原告が主張するような無効原因となるかしはないから、これが無効であることを前提として本件土地が原告の所有であることの確認を求める原告の請求は理由がない。

(結論)

そこで、本件訴えのうち不適法なものはこれを却下し、その余の部分は原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 平田浩 野田殷稔)

(別紙物件表省略)

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